ブラッド・メルドーは1970年、アメリカのフロリダ生まれのジャズ・ピアニストだ。
私と同世代なのだが、どことなく大人になり切れていない万年青年の印象を受ける。
音楽的に成熟していないと言っているのではなく、彼のつくり出す音楽は常に瑞々しく美しいのだ。
さて、本作はブラッド・メルドーのトリオ作品として最高傑作との声も高い。
1,2,5,6,10がメルドーのオリジナルで、3,7,9はスタンダード、4はレディオヘッド、8はニック・ドレイクのカバーとなっている。
私のおすすめトラックは、1,2,4,8,9である。
1は水面に落とした墨汁がじんわりと広がっていくような静謐な美しさに満ちている。少し無機質に響くピアノの音がまたこの曲にあっていて派手さはないが心に刺さる1曲だ。
2は、まるでエンリコ・ピエランンツィのような曲調だが、左右の手が独立しそれぞれのメロディーを奏でるメルドーお得意の対位法的な演奏が冴える。グレナディアとロッシの2人もメルドーを立てつつも時には煽り演奏を盛り立てている。
4はレディオヘッドの人気曲で、このような選曲がやはり今風(当時は)である。レディへ好きにはうれしい選曲であるが問題はその出来である。
これも期待を裏切らない出来で、最も盛り上がる部分でメルドーは意外と淡々と引いているのにバックの2人がこれでもかと煽っているのが面白い。
だが、これはまだ露払い。本命は『The Art Of The Trio, Vol. 4』に収められている方だ。
メルドーの鬼気迫るソロがすごい!おそらく凄すぎて観客も拍手を忘れるくらいの迫力のあるソロだった。
メルドーはこの後も、「Knives Out」「Paranoid Android」「Jigsaw Falling Into Place」などレディへの曲をたびたび取り上げている。
今では多くのジャズミュージシャンがレディオヘッドの曲を取り上げて演奏しているが、おそらくメルドーが最初だったのではないかと思う。
少なくとも最も影響を与えたことは確かだろう。
8はイギリスのフォークシンガー・ニック・ドレイクの代表曲で、私はメルドーから逆にドレイクを知った。
9は始まりは、かわいらしく始まるのだが、徐々に雲行きが怪しくなる。そして混沌はと突入しそのおどろおどろしさが頂点に達したところで、元のラインに戻りまるでブラームスの小作品のように美しく締めくくられる。
10曲全てが磨き抜かれた珠のようなアルバムで、多くのファンがメルドートリオの最高傑作と推すのもうなずける完成度である。
トリオの行きもぴったりで1人が前に出ればあとの2人はそれを支え、また時にはエヴァンストリオ並みのインタープレイで曲全体を盛り立てる。
ピアノトリオ好きなら誰にでも胸を張って推すことのできるピアノトリオの新し形を示す傑作であると思う。
【Track listing】
- Song-Song
- Unrequited
- Bewitched, Bothered and Bewildered
- Exit Music (For a Film)
- At a Loss
- Convalescent
- For All We Know
- River Man
- Young at Heart
- Sehnsucht
【Personnel】
Brad Mehldau (p)
Larry Grenadier (b)
Jorge Rossy – (ds)
コメント