毎日の酷暑にあえぐエビスだが、皆様はいかがお過ごしだろうか?
酷暑といってもお盆を過ぎると朝夕にそよぐ風にかすかに秋の気配を感じられる。
そんな夏の終わりに、「サマータイム(Summertime)」の名演10選をお届けしたいと思う。
同一規格秋編「秋も深まってきたので『枯葉(Autumn Leaves)』の名演10選」はこちら↓
Summertimeとは?
「サマータイム(Summertime)」はジョージ・ガーシュウィンが1935年の初演のオペラ『ポーギーとベス』のために作曲したバラードだ。
『ポーギーとベス』は1920年代初頭のアメリカ南部の貧しい黒人の生活を描いたもので、登場人物もほとんど黒人というオペラとしてはかなり珍しいものだ。
『ポーギーとベス』からは、「サマータイム(Summertime)」の他にも「うちの人は逝ってしまった( My Man’s Gone Now)」「アイ・ラブ・ユー、ポーギー (I Loves You, Porgy)」もスタンダードナンバーとなっている。
「サマータイム(Summertime)」は、翌36年にビリー・ホリディがカバーしチャート12位のヒットとなる。
その後、多くのジャズミュージシャンにカバーされ、愛されてきた。
ジャズにとどまらず、ソウル、R&B、ロック、ポップスまで幅広いジャンルのアーティストにカバーされているスタンダードナンバーだ。
どこか気怠く、哀愁漂うメロディーが胸に迫る。
現実とは逆の歌詞がまた悲壮感を際立たせる。
Oh, your daddy’s rich
And your ma is good-lookin’
So hush, little baby
Don’t you cry
あなたの父さんはお金持ち
あなたのママは器量よし
だから静かにして、ベイビー
泣かないで
Lyrics:DuBose Heyward
それでは10の名演をお楽しみください。
管楽器編
まずは、ジャズの花形管楽器による名演からスタート!
4人のうち3人がアルトサックスという結果になった。
モダン・アート/アート・ペッパー
村上春樹の「ポートレイト・イン・ジャズ」の中にアート・ペッパーに関して以下のように言及されている。
チャーリー・パーカーを、奇跡の羽を持った天使とするなら、アート・ペッパーはおそらくは変形した片翼を持った天使だ。彼は羽ばたく術を知っている。自分が行くべき場所を承知している。しかしその羽ばたきは、彼を約束された場所へとは連れては行かない。
引用:村上春樹「ポートレイト・イン・ジャズ」
村上は、ペッパーは自分が理想とする音と自分が奏でる音との間の齟齬に常にジレンマを抱えていたと分析する。
確かに、同じアルト奏者のパーカーが気持ちよさそうにソロを吹きまくっているのに比べ、ペッパーは常に何かにせかされているような感じを受ける。
自分では満足のいく演奏ではないのに、聴衆はそれを絶賛するというところにも何かやりきれないものを感じていたのかもしれない。
多くの天才的なジャズミュージシャンと同様、かなり破滅的な人生を送ったペッパーだが、聞くものの心を揺さぶり、その記憶に何かしらの痕跡を残していく。
ペッパーは『アート・オブ・ペッパー』にも「サマータイム」を吹き込んでいるが、私は「モダン・アート」のボーナストラックのものが好みだ。
何かを渇望するようなむせび泣くような音が胸にしみる。
ベン・タッカーのどっしりとしたベースやラス・フリーマンのちょっとゴツゴツとしたソロも切なくていい。
私は、ペッパーにはスウィングする曲よりも、このような哀愁漂う曲が似合うと思うのだがいかがだろうか?
エイプリル・イン・パリ/チャーリー・パーカー
正直、私はパーカーが苦手である。
もちろん、彼のテクニックが並外れたものであることは、楽器を弾かない私でもわかる。
息をつく暇もなく次から次へとメロディーを繰り出す様は、まさに天才そのものだ。
しかし、アルト奏者では、パーカーよりもアート・ペッパーやポール・デスモンドの方を圧倒的に聞いている。
ペッパーの自己矛盾を孕んだ音やデスモンドの柔らかくも堅い芯のある音が好きなのだ。
全くの偏見なのだが、パーカーはその才ゆえ「音楽に関して悩んだことがない」からではないのだろうか?
どんな難しいフレーズも鼻歌を歌いながら軽々と吹きこなし、聞く者を圧倒する。
だが、私が聞きたいのはそのプレイヤーのうちから溢れ出す歌なのだ。
パーカーの音楽は歌ではなくそのテクニックの展示会のようで苦手だというのが本音だ。
おそらく、私のジャズに関する知識や感性が乏しいせいなのだろうが、好き嫌いなのだから仕方がない。
だが、この「サマータイム」はパーカーの中でもかなり好きな演奏に入る。
ストリングスをバックにいつもより控えめなパーカーだが、かえってそれがいいと私は思う。
この演奏で、パーカーは確かに歌っているのだ。
サマータイム/ポール・デスモンド
ポール・デスモンドは、お気に入りのアルト奏者の1人である。
まず、唯一無二の音色!
柔らかいのだがフニャフニャした軟弱な音色ではなく、しっかり揺るがない芯がある。
誰に対しても当りがいいが、自分の信念は曲げないナイスガイのような音なのだ。
「サマータイム」をメインに据えた『サマータイム』というアルバムに収録されているバージョンは、都会的な洗練された「サマータイム」である。
ハービー・ハンコックの控えめなピアノもデスモンドのアルトを引き立てている。
マイ・フェイバリット・シングス/ジョン・コルトレーン
ペッパーやデスモンドと違い力強く硬質な演奏。
さすがコルトレーン、とにかくスキマに音を入れまくる!
煽りまくるエルヴィン・ジョーンズのドラムがちょっとうるさい気がするが、それはいつものこと。
マッコイのソロは非常に美しく彼のソロの中でもお気に入りなのだが、少し音が小さいのが残念。
とにかく濃厚な演奏なので疲れているときにはおすすめしないが、気力・体力の充実している方にはぜひ聞いていただきたい。
ピアノ編
スタンダードナンバーだけに、名演が多くエヴァンスやウィントン・ケリーなども考えたが、以下の3名に決定
ピアノ編では才色兼備が服を着て演奏している大西順子とガーシュウィン作品を何度も録音しているオスカー・ピーターソン、そして最近、お気に入りの山中千尋をチョイス。
クルージン/大西順子
重苦しいベースの音から始まり最初からかなり崩した演奏。
適切な表現なのかわからないが都会の路地裏感が出ている気がする。
気怠い中にも1音1音はクッキリとしていて、大西順子らしい音作り。
この人の音はとにかく粒立ちがいい。
オリジナル曲もいいがスタンダードナンバーも流石の出来。
プレイズ・ザ・ポーギ・アンド・ベス/オスカー・ピーターソン
オスカー・ピーターソンはとにかく指が回る。
早いパッセージも軽々とこなす。
故・羽田健太郎がそんな感じの演奏家だった気がする。
指のまわる人の演奏は得てして曲芸チックで情感が薄くなりがちだが、ピーターソンの演奏は決して機械的になることはない。
だからこそ長年、第一線で活躍できたのだろう。
今回紹介する10名の中で最も軽快な演奏だが、曲の持つ悲壮感や絶望感が損なわれてはいない。
ピーターソンの名人芸を堪能しよう。
マイ・フェイバリット・ブルーノート/山中千尋
『モンク・スタディーズ』を聞いて、その解釈とアレンジ力に圧倒された。
「サマータイム」は、山中のブルーノートレーベルのお気に入りを集めたもので、「サマータイム」と「ドント・ノウ・ホワイ」が山中の新録音であとはそれぞれのオリジナルである。
情感あふれるイントロから最初はスローテンポで静かに入る。
繰り返すたびに、テンポが上がり音も厚くなっていく。
その他編
管楽器、ピアノ以外に、ジム・ホールとパット・メセニーのギターデュオ、ヴィヴラフォンの大御所ゲイリー・バートンとジョン・スコフィールドとの共演、そしてモダン・ジャズ・カルテットのラストコンサートからの演奏をえらんでみた。
この他にもジャズ・バイオリニストのステファン・グラッペリとマッコイ・タイナーとの共演やマーカス・ミラーのライブ盤も入れたかったのだが断念した。
ジム・ホール&パット・メセニー/ジム・ホール&パット・メセニー
パットが彼のギターヒーローであるジムホールとデュエットしたアルバムの1曲。
想像だがこの曲でアコギをジャンジャカジャンジャカ弾いているのがパットで、メロディーを弾いているのがジムではないだろうか?
まるでフォークかカントリーのようで、一瞬マーク・ジョンソンの「サマー・ランニング」かと思った。
ジムは相変わらずどこか変わっているけどカッコいいフレーズを連発している。
シックス・パック/ゲイリー・バートン
片手に2本のマレットを持つ4本マレット使いのバイヴ奏者ゲイリー・バートン。
チック・コリアと共演した名盤『クリスタル・サイレンス』や、チックやパット・メセニー、ロイ・ヘインズ、デイヴ・ホランドとジャズ界のオールスターのような『ライク・マインズ』など、さまざまな活動をおこなっている。
この『シックス・パック』は、ゲイリー・バートンと6人のジャズギタリストとの競演である。
お相手に選ばたのは、カート・ローゼンウィンケル、ジム・ホール、ラルフ・タウナー、ケヴィン・ユーバンクス、BBキング、そしてジョン・スコフィールドという豪華メンバー。
そして、「サマータイム」で共演するのは、アウトするハ〇ことジョン・スコフィールドである。
ピアノにマルグル・ミラー、ベースにスティーブ・スワロー、ドラムにジャック・ディジョネットという鉄壁のリズム隊、さらにサックスにボブバーグを加えた豪華な布陣。
ヴィヴラフォンというのは不思議な楽器で、ヴィヴラフォンがはいると演奏がクールになる。
クールというのは「いかしている」とかの方ではなくて、文字通り「涼し気に」なる。
ボブ・バーグの熱演が冷えた分温めなおしてくれる。
そして、ジョンスコは控えめではなるがアウトしている。
実に都会的でクール(カッコい)な「サマータイム」だ。
ラスト・コンサート/モダン・ジャズ・カルテット
上のゲイリー・バートンの前のヴィヴラフォンの巨人といえば、ミルト・ジャクソンだろう。
MJQとしての活躍だけではなく、ソロでも大活躍。
あの山岡士郎も、天才というほどのプレイヤーだ。
ただし、MJQでのジャクソンは、控えめだ。
あるれるほどのソウルフィーリングは、鳴りを潜める。
MJQは、リーダーのジョン・ルイスの統率が効いておりなかなか持ち前もソウルフィーリングを出すことができない。
それでも、ルイスのスキをついて、時おりソウルフィーリングが顔を出す。
この曲はさすがMJQというクールでジャジーな演奏で、完璧なアンサンブルを聞かせてくれる。
しかし、やはりジャクソンは溢れる感情を抑えきれずに所々暴走しかけているように聞こえる。
クラシックのように計算されたアンサンブルが彼らの特徴だが、ミルト・ジャクソンの暴走もまた彼らの味の一つなのだと思う。
最後までお読みいただきありがとうございます。
読者の皆様にとってお気に入りの1曲が見つかれば幸いです。
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