M.I.T出身の秀才トム・ショルツ率いるというより、ほぼ彼のソロプロジェクトとも言えそうなボストンのサードアルバム。
前作の『Don’t Look Back』から本作のリリースまで8年もかかった。
もともと寡作なグループで40年以上のキャリアを誇りながら、発表したアルバムは『Greatest Hits』を含めわずか6枚である。
これはトム・ショルツの完璧主義が原因ではなかろうか。
入れ替わりの激しいアメリカの音楽業界において、8年ものブランクは重大なハンデになりそうなものだが、予想に反して本作は4週にわたり全米№1に輝き、ファーストシングルの「Amanda」もグループ初の(そして唯一の)全米№1シングルとなった。
1は、スローテンポのいわゆるパワーバラードで、出だしのギター1音目の音の良さに驚く。
ギターがコードを弾いているだけなのだが、空間の広がりを感じられトム・ショルツの音へのこだわりがうかがえる。
美しくキャッチーなメロディーを持つこの曲は、先に書いたようにバンド唯一の全米№1ヒットとなった。
ブラッド・デルプの伸びやかなボーカルとサビの重厚で美しいコーラスが印象的である。
3は、インストゥルメンタルだが、私が本作の中で最も気に入っている曲の1つである。
私はどういうわけかこの曲を聴くと、新宿ビル群の夜景が思い浮かぶのだ。
4や7のようなホットなロックナンバーもあるのだが、今作はメロウなナンバーが多い気がする。
極めつけは、恋人との青春を振り返る10だろう。
若い恋人同士特有の2人の殻に入ったときの何とも言えない高揚感と全能感はどこか牧歌的なメロディーも相まってノスタルジーを刺激する。
そして、1とよく似たメロディーがリフレインしアルバムは幕を閉じる。
本作は評論家筋からの評価はあまり高くないが、トム・ショルツのギターは全編にわたってさえているし、アルバムとしては統一感があり私は気に入っている。
キャッチ‐なメロディーが多く、産業ロックなどと揶揄されることもあるボストンだが、
音楽的価値が高くても退屈な作品よりも余程いいと思う。
懐石料理を食べる感動はそりゃ深くてすごいのは分かるが、カップラーメンのおいしさはまた別のところにあると思うのだ。
【Track listing】
- Amanda
- “We’re Ready
- The Launch
a) Countdown
b) Ignition
c) Third Stage Separation - Cool the Engines
- My Destination” 2:19
- A New World” (Instrumental)
- To Be a Man
- I Think I Like It
- Can’tcha Say (You Believe in Me)/Still in Love
- Hollyann
【Personnel】
Brad Delp (vo)
Tom Scholz (g)
Gary Pihl (vo)(8)
Jim Masdea (ds) (5–10)
Sib Hashian (ds) (1–4)
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