あらすじ
百合が原高原の空きペンションを利用しカフェ「Son de vent」をオープンした奈穂。
かつてペンションブームに沸いたこの地も今ではすっかり寂れてしまっている。
実は奈穂は、東京の出版社で編集者として働いていたが、エリートの夫のモラハラにより自律神経失調症に陥り逃げるようにしてこの高原にやってきたのだった。
この高原の食材の豊富さに魅せられた奈穂は、地元の人たちと交流を通じて、徐々に自分を取り戻しカフェオーナーとしても成長していく。
感想
「Son de vent」にくるお客さんはよくしゃべる。
地元の人でも、そうでなくてもとにかくしゃべる。
奈穂がある意味まだ他所者なので、比較的しゃべりやすく、また他に漏らさないと思ってしゃべるのだろう。
ひよこ牧場の南、「田中さん」、あおぞらベーカリーの雅美、調停中の夫、美貌の経営アドバイザー、涼介に井村、皆、「Son de vent」の料理に舌鼓を打ち、奈穂と話すうちに問題解決のヒントをもらったり与えたり、この辺は都合よすぎる気がするが料理が美味しそうなのでよし。
リゾート地を舞台にする作品には必ずと言っていいほど大資本による開発の話が出てくるが、今回はちょっと様子が違う。
以前は、お客は大資本が根こそぎ奪っていきそれに地元が反対するという構図であるが、ここに出てくるリリーフィールド・ホテルはちょっと違う。
地元の食材をふんだんに使ったり、地元の店舗ともある程度共存を図るなど大資本=悪という単純な構図ではない。
それどころか、最高のサービスを提供し、あおぞらベーカリーの夫婦や奈穂にいい意味での影響を与えていく。
なぜ、リリーフィールド・ホテルがこのような経営をしているかというと、実は…。
これは読んでからのお楽しみだが、1話めである程度読めてしまった私はたぶん擦れている。
出てくる料理はどれも食べてみたくなるほど美味しそうな描写で作者の美食家ぶりがうかがえる。
なんでも作者自ら作ってみて絶対美味しいというものばかり出したのだという。
そのこだわりぶりに脱帽である。
ただ、ちょっと不満な点を挙げると、井村と安西の話が唐突だったことと、冬の厳しさの描写が少なくあっさりと乗り切ってしまって拍子抜けしたことくらいだ。
最後に「素人のままで達人になりなさい。」という「田中さん」の言葉は、
曲がりなりにも士業をしている自分には「業務に通じるのはいいが、お客様目線を忘れるな」問う意味に解釈した。
月並みだが「初心忘るべからず」である。
こんな人におすすめ
- 香菜里屋シリーズが好きな人
- ビストロ・パ・マルシリーズが好きな人
- とにかく食べることが好きな人
自作はこちら⇒『草原のコック・オー・ヴァン 高原カフェ日誌II』
最後までお読みいただきありがとうございます。
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