あらすじ
中学生の時、いち子は母親に捨てられた。
やがて、街に出て男と暮らし始めるが、生来の我の強さもあり破局して、故郷の小森に帰ってきた。
米を作り畑で野菜を育て、時には山に山菜を取りに行ったり、自然に合わせ生活をする。
ストーブでパンを焼き、コメを発行させてサワーを作り、また合鴨農法で使っているカモを潰したり、厳しくも充実した日々を送っていた。
幼馴染のユウ太も、いち子と同じく街に出たが、街の人々のような「人に殺させておいて、殺し方にケチをつけるような人生」を送りたくないと小森に戻ってきた。
隣の幼馴染キッコやユウ太や小森の人々と触れ合ううちに、自分が何の覚悟も持たないその場しのぎの生活をしていると感じるようになる。
ある時、ユウ太にそのことを指摘され、やがて、このまま小森にいるのは納得がいかないと、出て行ってしまう。
そして、5年後、街で伴侶を見つけたいち子は、夫とともに小森に帰ってきた。
最低限自分たちの力で農業をやっていくために、小森の老人たちを先生とする勉強会を立ち上げる。
伝統の神楽を復活させ、神楽を舞い終わった後のいち子の表情は晴れやかだった。
テレビで見るほど田舎暮らしは楽ではない
もう数年来、田舎暮らしが若い人たちの間でブームのようになっている。
Youtubeでもその手の動画が散乱している(もちろん中には真摯に田舎で生きていこうとしている人たちもいる)。
1人暮らしのはずなのになぜか他人が取っているものは、プロダクションの企画ものであろう。
作者は実際に岩手県の衣川で、作中と同様のほぼ自給自足の生活をしたそうだ。
それだけに、描写にリアリティがある。
五十嵐大介は、本来はそのあふれんばかりの想像力とそれを漫画表現に落とし込む卓越した画力が持ち味のマンガ家だ。
本作では、前者の想像力が実際の経験に置き換わっていて、たまに出てくるファンタジックな描写以外は、リアリズムを徹底しているように思う。
自分が作ったり取ってきたり、他の農家にもらったりした新鮮な食材をふんだんに使った料理は、決して店で出てくるようなものではないが、どれも最上の味であろうことは想像に難くない。
また、料理だけではなく、田舎の生活の描写が素晴らしく、例えば、冬を乗り切るためのマキ割りや、保存食を作ったり、イワナをさばいたり鴨を潰したり、現代の日本の街ではほぼ行われることのないものばかりだ。
また、田舎で生きる若者の葛藤もテーマとして流れている。
小森で一生生きていく覚悟を決め町から戻ってきたユウ太、居場所を見つけられなくて逃げてきたいち子の対比が鮮やかに描かれる。
第30話でユウ太に「いち子ちゃんはひとりでいっしょうけんめいやってて、すごいって思ってたけど、実はいちばんカンジンな事から目をそらして、そのことをごまかすために、自分をダマすために、その場その場を”いっしょうけんめい”でとりつくろってる気がする。ホントは逃げてるんじゃないの?」言われて、いち子は何も言い返すことができずに沈黙する。
覚悟を持ったユウ太の言葉だけに重い言葉だろう。
その言葉がきっかけになったのかはわからないが、いち子は自分の居場所を見つけるために小森を出ていく。
5年後に、夫を連れて小森に帰ってきたいち子は、周りを巻き込み農家が自分の力でやっていけるよう勉強会を立ち上げる。
講師は先輩である小森の農家の人たちだ。
やっと自分の居場所を見つけたいち子は、神楽を舞った後、実に晴れ晴れとした笑顔を見せていた。
美味しそうな食べ物の数々
農業をやったり山に入ったりということで、『土を喰らう日々/水上勉』と似たような料理が多い。
ただ、さすがに70年代の『土を~』に比べて、2000年代に出た本作では、やはり本作のほうがモダンな料理が多い。
凄いのがヌテラを作ってしまうこと。
私もヌテラは好物で、輸入食料品の店で見かけると買ってしまうのだが、日本に自生しているハシバミで作るとは知らなった。
いろいろと制約があるのだが、制約がある方がかえって発想が豊かになりいいものが出来上がるのは、料理も同じである。
限られた食料を無駄にすることなく、使い切るのは両作品に通じる精進の精神だろう。
最後までお読みいただきありがとうございます。
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