スティーリー・ダンといえば超一流のスタジオミュージシャンを贅沢に使い倒し、寸分のスキもないアルバムを作り上げるというイメージがあるかもしれない。
このイメージは、解散前の2枚の傑作アルバム『彩(エイジャ)』と『ガウチョ』によるものだ。
しかし、今回取り上げる『幻想の摩天楼』は、これら2枚とは趣が違う。
どちらかというと、ギターロック寄りのちょっとラフなアルバムである。
名ギタリストたちの競演が聞けるというのが一番のポイントだが、特に1のラリー・カールトンのギターソロは必聴である。
スティーリー・ダン(Steely Dan)とは
ウィリアム・バロウズの『裸のランチ』の中から取ったという、奇妙な名前を持つこのバンドは1970年代のはじめにニューヨークで結成された。
中心人物の、ドナルド・フェイゲンとウォルター・ベッカーはニューヨークのカレッジで出逢い、作曲家として身を立てようとするが全く売れなかった。
やがて後の盟友となるプロデューサーのゲイリー・カッツに才能を見出され、自作の曲を演奏するためにバンドを結成したようだ。
当初、フェイゲンはボーカルを取るつもりがなかったらしいが、しかしゲイリー・カッツらがフェイゲンのボーカルを気に入り、ボーカルを取ることを進めていた。
初代ボーカリストのデイビッド・パーマーが数曲レコーディングしたがやはりフェイゲンの方がいいということでボーカルを取ることとなった。
なお、Youtubeでパーマーがボーカルを取っている映像を見ることが出来るが、やはりこのバンドにはフェイゲンの声がぴったりはまる。
フェイゲンの声はどことなく無機質で不思議なハーモニーを持っていて、まるで他の楽器の音色に溶け込み、ジャズ・フュージョン色の濃いこのバンドの特性とあっていると思う。
ライブを嫌い後期ビートルズのようにレコーディングに力を入れるようになると、メンバーの演奏では物足りなくなり、フェイゲンとベッカーを残して全員バンドを去った(実際は解雇)。
曲によってはフェイゲンやベッカーですら楽器を演奏しないこともあったらしい。
そして、バンドの楽曲は精緻を極めていく。
ギタリストたちの名演が聞けるお得なアルバム
作曲者のフェイゲンがキーボード奏者ということもあり、ロックバンドでありながらギターがあまり鳴らないバンドであった。
このアルバムでは、ラリー・カールトン、デニー・ディアス 、エリオット・ランドール 、ディーン・パークス 、そしてベッカーと豪華なギタリスト勢がソロを取っている。
中でも、1におけるカールトンのギターソロは彼の代名詞ともいえるくらい素晴らしい物であり、しばしばギターソロのランキングの上位に顔を出す。
クールでありながらどこか焦燥感を駆り立てるソロはこれだけ取り出して聴きたいくらいだ(実際カールトンはしばしばこの曲のソロ部分のみを演奏している)。
カールトンは3でもギターを弾いている。
4と6(2回目のソロ)のソロはエリオット・ランドールが弾いており、ランドールは『Can’t Buy a Thrill』収録の「リーリン・イン・ザ・イヤーズ」でもブルージーなギターを披露している。
このソロはジミー・ペイジもお気に入りらしい。
また、8ではベッカーが改造したトークボックスギターをディーン・パークスが弾いている。
このように、彼らの中ではある意味異質のアルバムであるが、1に引っ張られる形でつい最後まで聞いてしまう。
その楽曲のクオリティーの高さとともに取り上げられるフェイゲンの捻じれた歌詞は、このアルバムで頂点を極めたようだ(私の英語力では理解できないが)。
もちろん、彼らの楽曲自体が優れているというのもあるが、スティーリー・ダンを聴く楽しみの一つはセッションプレイヤーがどんなプレイをしたかをその耳で確かめることにもある。
彼らにしてはロックフィーリングにあふれた少し荒っぽいアルバムだが、この後、彼らは精緻の極みと言われた『Aja』『Gaucho』を作り上げる。
ある意味、飛空前の助走的なアルバムと言えるかもしれない。
【Track listing】
- Kid Charlemagne guitar: Larry Carlton
- The Caves of Altamira
- Don’t Take Me Alive guitar: Larry Carlton
- Sign In Stranger guitar solo by Elliott Randall
- The Fez guitar: Walter Becker
- Green Earrings guitar: Denny Dias (1st) and Elliott Randall (2nd)
- Haitian Divorce talk box guitar: Dean Parks
- Everything You Did guitar: Larry Carlton
- The Royal Scam
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