ピアノとギターの名手が織りなす最高峰のデュオ作品
ジャズピアニストと言えば真っ先に名前が挙がるビル・エヴァンス。
リリカルと評されることの多いエヴァンスだが、私はかなり強靭でなタッチでアタック感も強く、とにかくかっこいいフレーズをこれでもかと入れてくるピアニストといった印象がある。
どこか一癖あるフレーズが持ち味のジム・ホール。
ジム・ホールも後世に与えた影響は大きく、現代活躍中の若手~中堅のジャズギタリストは皆、彼の影響を最も多く受けていると答えるという。
その名手ふたりの紡ぎだす音楽が悪かろうはずはなく、まさに極上のデュエット。
通常ジャズの編成は、ピアノ(ギター)+ベース+ドラム+αであることの多い。
「ピアノとギターだけではどこか物足りないのでは?」と思われるかもしれないが、その心配は杞憂。
コンボに優るとも劣らない豊かに響く音楽を二人は奏でる。
(ほぼ)このアルバムでしか聞けない「Dream Gypsy」が秀逸
トラック1の高速の「My Funny Valentine」が有名だが、私のフェイバリットはトラック3の「Dream Gypsy」だ。作曲はJudith Veeversだというが、私は寡聞にして知らない。
この曲の演奏も当アルバム以外見当たらないようだ。
確かに有名ではないが、曲は素晴らしく愁いを帯びた美しいメロディーが胸を打つ。
ジプシーからの連想でルソーの「眠るジプシー女」が脳裏に浮かぶ。
美しい曲はえてして安易なセンチメンタリズムに堕しやすいところがあるが、この演奏は違う。
どちらがソロを弾いても、お互いがこれしかないという最高に選びぬいた音をぶつける。
その緊張感がこの曲を単なる美メロ以上の曲に押し上げ、私の心をつかんで離さないのではないかと思う。
いささかほめすぎた感があるが、数あるエヴァンスの演奏の中でも、私がもっとも繰り返し聞いているのがこの曲なのである。
正直、なぜ他のプレイヤーが演奏しないのか不思議でならない。
他の曲も名演ぞろい
その他は、有名曲が並んでいる。もちろん1の他に類を見ない高速の「My Funny Valentine」の緊張感あふれる音のやり取りは、大げさに言えば刀の鍔迫り合いを思わせる。
CDでは、別テイクが収録されているが、こちらはまだリハーサルという感じで、お互いに手探りでやっていることがはっきりと分かる。やはり一発どりではなかったかと納得した。
それでも、この曲の他では類を見ない解釈と演奏でありその素晴らしさが減じるものではない。
その他の曲は比較的ゆったりとしたテンポの曲が多いが、どの曲もリラックスしているような感じはないように感じる。
お互いに神経を研ぎ澄ませ、相手の出す音・フレーズに対して自分も最高の音・フレーズをぶつけようといういい意味でも緊張感にみなぎっているように思う。
エヴァンスとホールのその他の競演盤
エヴァンスとホールはこの共演で気があったのかこの後も『Intermodulation』『Interplay』『Loose Blues』と共演を重ねている。
1枚目は、今回と同じくエヴァンスとホールのデュオで本作よりはくつろいだインティメートな雰囲気が漂う。
2枚目はエヴァンスとホールの他にフレディ・ハバート(tp)、パーシー・ヒース(b)、フィリー・ジョー・ジョーンズ(dr)のワンホーンのQuintetだ。3枚目はハバートがズート・シムズ(ts)、ベースがロン・カーターに代わっている。
2、3枚目はピアノトリオでの録音が多いエヴァンスにしては珍しい構成のコンボで、演奏もどこか実験的なところがるように思われるが、珍しい構成なので一聴の価値価値があると思う。
非常にくつろいだ感じがする演奏だ。
ジャケットも美しい
通称「度座衛門」などともいわれるジャケットであるが、フロリダの泉で行われる水中ダンスショーの一コマのようだ。
フロリダは有名なワクーラ泉をはじめ泉が多い土地だ。
ジョン・エバレット・ミレーのオフィーリアを思わせる構図だが、静謐な美しさに満ちていてこのアルバムの内容を端的に語っているような素晴らしいジャケットだと思う。
アルバムのために撮影されたものだはなく、もともと写真家Toni Frissellの「 Weeki Wachee Spring, Florida」という作品だ。
そして、この写真を選んだデザイナーの慧眼に恐れ入る。
ちなみに、私も部屋にCDのジャケットを飾っている。
受けの部分はセリアのもので、左隣は『Coverd/Robert Glasper』である。
1. My Funny Valentine
2.I Hear a Rhapsody
3.Dream Gypsy
4.Romain
5.Skating in Central Park
6.Darn That Dream
7.Stairway to the Stars
8.I’m Getting Sentimental Over You
9.My Funny Valentine [Alternate Take]
10.Romain [Alternate Take]
[Personnel]
ビル・エヴァンス(p)
ジム・ホール(g)
1962年録音
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