フリードリヒ・グルダは1930年5月16日にオーストリアはウィーンに生まれた。
グルダが他のクラシックピアニストと違うところは、ジャズの演奏も始めたところだ。
しかも、本気でジャズピアニストに転向しようとしていたのだから筋金入りだ。
はじめて聞いたグルダは、アバド、ウィーンフィルと組んだモーツァルトのピアノ協奏曲全集20番、21番だった。
その時は、何となくモコモコしているような印象を持った。
次に聞いたグルダが本作である。
はじめて聞いた感想は「何かジャズっぽくて楽しい」というものだった。
もちろん、前期のジャズピアニストの下りなど知らない頃のことだ。
当時、浪人していたので勉強のBGMにうってつけだと思い、何日かに1度は聞いていた。
「平均律」で初めに聞く演奏ではない(個性が強すぎる)という批評を見たのはだいぶ後のことだった。
私は特に24番のプレリュードとフーガが大好きでこれだけを何度もリピートすることもあるくらいなのだが、後に聞いたグールドに比べるとかなりスローテンポな演奏で、ところどころ音を入れたりとかなり自由に演奏している印象だ。
こういうところも何となくジャズの演奏を想起させる要因だろう。
ちなみに、グールドがプレリュードとフーガで8分39秒、グルダはフーガだけで8分16秒、プレリュードとフーガを合わせると16分41秒とほぼ倍である。
しかし、スローテンポだからと言ってそれで演奏がダレているとか悪戯にロマンティシズムを煽ったりしているわけでは決してない。
どちらかというと演奏自体はそっけないくらいあっさりとしていると感じるし、そのそっけなさがかえってバッハの音楽そのものに肉薄しているというのは格好付けすぎだろうか?
はじめて聞いた「平均律」だからと言って、贔屓目に見るわけではないがバッハの曲の持つ対称性などの構造美を最も鮮明に打ち出しているのが、このグルダ盤ではないかと思う。
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