シリーズ第3作。
今は廃寺となっている源永寺の円空仏を廻る連作短編集。
コーヒー豆の仕入れ先の代替わり、新社長が紅雲町へのカフェ出店をするために小蔵屋を偵察にやってくる(長月、ひと雨ごとに)。
町の八百屋の産地偽装を取材する萩尾とそれに図らずも協力することとなったお草(霜月の虹)
由紀乃の遠縁で市井の民俗学者勅使河原にコーヒーの入れ方を教えに行くお草。勅使河原家の付近に出没する不審者、勅使河原の娘ミナホと離婚した妻の再婚話も絡んで(睦月に集う)。
由紀乃の隣の借家に住む芸者の喜美路が行方をくらませた。大雪で倒壊しかねない屋根の修理をしてもらうためその行方を追うお草(弥生の燈)。勅使河原の受賞パーティーがポンヌファンで行われる。嵐の中、一人の青年が女と待ち合わせのために予約を入れたのだが、手違いで翌日の予約になっていた。貸切のため店は個室を用意し2人を受け入れるのだが…(皐月の嵐に)。円空仏を廻る勅使河原とミナホの親子、萩尾と藤田の絡まった関係。ミナホは紅雲町の店をたたみ都内へ、そして、萩尾は母の汚職と将来へのチャンスに揺れていた。お草は、15年前の出来事により絡まってしまった4人の糸を解きほぐすことが出来るのか(文月、名もなき花の)?
後期高齢者とは思えないバイタリティーと情は深くも筋は一本通すお草さんが今回もおせっかいなくらいに動く。
前作よりも、文体は読みやすくなった気はするが、その分含みが多くさらっと読み流すと取り残されることになる。
どこかでも書いたのだが、どことなく向田邦子の作品を読んでいるかのようだ。
これは作者の筆が成熟していっている証拠なのだろう。
毎回どこか苦みが残る話は、ありきたりなハッピーエンドでは出せないリアリティーがある。
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