10月に読んだ本の紹介と感想

当ページのリンクには広告が含まれています。
本
スポンサーリンク
目次

吉永南央『紅雲町 珈琲屋こよみ その日まで』

あらすじと感想

群馬県にある紅雲町で古民家風のコーヒー豆と和食器を扱う店・小蔵屋を切り盛りする杉浦草。
今回は、入浴ストライキをしている少年とライカのカメラを売る男の話(如月の人形)、近くにできたライバル店からのいやがらせと子供が障害を持っているゆえに障害者施設の活動に入れ込む男の話(卯月に飛んで)、アメリカで彫刻家として成功した娘のように年下の友人ナオミから、自分の油絵具を校庭の隅で燃やした人間を見つけてほしいと頼まれる話(水無月、揺れる緑の)、不当に安く店舗を買い取ったためその不正に付け込まれゆすりを受ける店主の話(葉月の雪の下)、店への無言電話とその裏で起こるいくつかの悲劇。すべての話がお草の因縁の人物へとつながっていく(神無月の声)、因縁人物と直接対決を果たすお草だったが…(師走、その日まで)の6篇を収録している。

感想はこちらで
吉永南央『紅雲町 珈琲屋こよみ その日まで』

吉永南央『紅雲町 珈琲屋こよみ 名もなき花の』

あらすじと感想

シリーズ第3作。
今は廃寺となっている源永寺の円空仏を廻る連作短編集。
コーヒー豆の仕入れ先の代替わり、新社長が紅雲町へのカフェ出店をするために小蔵屋を偵察にやってくる(長月、ひと雨ごとに)。
町の八百屋の産地偽装を取材する萩尾とそれに図らずも協力することとなったお草(霜月の虹)
由紀乃の遠縁で市井の民俗学者勅使河原にコーヒーの入れ方を教えに行くお草。勅使河原家の付近に出没する不審者、勅使河原の娘ミナホと離婚した妻の再婚話も絡んで(睦月に集う)。
由紀乃の隣の借家に住む芸者の喜美路が行方をくらませた。大雪で倒壊しかねない屋根の修理をしてもらうためその行方を追うお草(弥生の燈)。勅使河原の受賞パーティーがポンヌファンで行われる。嵐の中、一人の青年が女と待ち合わせのために予約を入れたのだが、手違いで翌日の予約になっていた。貸切のため店は個室を用意し2人を受け入れるのだが…(皐月の嵐に)。円空仏を廻る勅使河原とミナホの親子、萩尾と藤田の絡まった関係。ミナホは紅雲町の店をたたみ都内へ、そして、萩尾は母の汚職と将来へのチャンスに揺れていた。お草は、15年前の出来事により絡まってしまった4人の糸を解きほぐすことが出来るのか(文月、名もなき花の)?

後期高齢者とは思えないバイタリティーと情は深くも筋は一本通すお草さんが今回もおせっかいなくらいに動く。
前作よりも、文体は読みやすくなった気はするが、その分含みが多くさらっと読み流すと取り残されることになる。
どこかでも書いたのだが、どことなく向田邦子の作品を読んでいるかのようだ。
これは作者の筆が成熟していっている証拠なのだろう。
毎回どこか苦みが残る話は、ありきたりなハッピーエンドでは出せないリアリティーがある。

柴田よしき『風のベーコンサンド』

あらすじと感想

百合が原高原の空きペンションを利用しカフェ「Son de vent」をオープンした奈穂。
かつてペンションブームに沸いたこの地も今ではすっかり寂れてしまっている。
実は奈穂は、東京の出版社で編集者として働いていたが、エリートの夫のモラハラにより自律神経失調症に陥り逃げるようにしてこの高原にやってきたのだった。
この高原の食材の豊富さに魅せられた奈穂は、地元の人たちと交流を通じて、徐々に自分を取り戻しカフェオーナーとしても成長していく。

これも記事にしているので感想はこちらで
柴田よしき『風のベーコンサンド 高原カフェ日誌』おいしい料理だけではない地方リゾート地の現実も描いた作品

近藤史恵『マカロンはマカロン』

あらすじと感想

ドラマ化もされた人気シリーズの第3作。
ビストロ パ・マルは商店街の一角にあるこじんまりとしたビストロ。
店は小さいが、シェフ三舟が選び抜いた食材と丁寧な仕事で作り上げる料理の数々は客たちの心をつかんで離さない。
それだけではなく、三舟は客たちから持ち掛けられる謎も鮮やかに料理してしまうのだ。

今回も、おいしそうな料理がこれでもかと出てきて、保健指導中の自分にはなかなかつらかった。
最も印象に残った料理と言えば、ブーダン・ノワール。
豚の血を固めたこの料理、たしかNHKのプロフェッショナルで日本人として初めて三ツ星を取ったシェフが作っていた記憶がある。
その時も確かリンゴと合わせていた。
われわれの世代になると、ミスター味っ子で知った人も多いだろう(ドイツのソーセージだが)。
この作品のいいところは、単に料理を出すだけではなく、仕込みや店の運営方針などかなり踏み込んで描いているところではないか。
私は、2作目を飛ばしてしまったが、続編にも期待。

北森鴻『メイン・ディッシュ』

あらすじと感想

劇団女優・紅林ユリエと小杉隆一が立ち上げた劇団「紅神楽」を舞台とした連作短編。
雪の降る日、ユリエはミケさんこと三津池修を拾い、同棲を始める。
この劇団に起こる様々な謎をミケさんが解いていくミステリー。
ミケさんの鋭い推理と様々な創作料理、そして作者が北森鴻となれば面白くないわけがない。

2話目で早くも「?」とアラートが発令される。
連作短編なのだから無関係な話を入れてくるわけがない。
それにしても、さすがに北森鴻、出てくる創作料理がどれも美味しそうだ。
ただ、舞台女優の稼ぎでこれほどの料理が作れるのか?
また、かなり狭いサークル内の話で、実は全員どこかでつながっていましたと言った展開はちょっと残念。
あちこちに仕掛けが施してあり、さすがといった感じ。

筒井康隆『ロートレック荘殺人事件』

あらすじと感想

夏の終わりに、ロートレックの作品が至る所に飾られた別荘「ロートレック荘」に集まった青年たちと美しい女たち。
楽しいバカンスのはずが、美女が1人、銃弾に倒れる。
すぐに警察が介入し、監視体制を強めるがそれをあざ笑うかのように、1人また1人と美女たちが殺害されていく。
果たして、犯人は外部のものなのかそれとも…。
最後に、作者による詳細な解説がつけられる異色のミステリー。

なんとなく、トリックがわかってしまうのが、この手の作品の欠点だ。
このトリックが最初に使われたときは「フェア/アンフェア論争」が起こったというし、この手の作品に少なからず批判は出るのだろう。
まず、筒井康隆ということで、一筋縄でいく作品ではないと容易に想像がつく。
だが、筒井はフェアなことにきちんとヒントをそこかしこに用意してくれている。
特に、ロートレック荘の見取り図は重要なヒントである。
200ページほどの作品なので、肩ひじ張らずに楽しもう。

法月倫太郎『頼子のために』

あらすじと感想

17歳の愛娘を殺された大学教授の父親は、通り魔事件だと断定する警察の見解に疑問を抱く。
自ら調査を開始し、犯人と思しき人物を探り当てた父親はその人物を刺殺し自ら命を絶つという壮絶な手記を残していた。
しかし、その手記を読んだ法月倫太郎は、手記に書かれた父親の行動を調べなおしているうちに、いくつかの疑念が浮かぶ。
そして、たどり着いた真相とは?

およそ四半世紀ぶりに再読の感想。
この作品で、法月倫太郎は一皮むけたと感じた。
スケールが一回り大きくなったというか、読者を楽しませつつ自分も納得のさせるような作品が多くなった気がする。
ただ今作は、あまりロジックを積み上げていく話ではなく、どことなく情緒的な展開である。
法月倫太郎が、捜査に乗り出した意義なども正直見いだせない。
だが、最後の1ページの余韻がいつまでも残る。

最後までお読みいただきありがとうございます。

スポンサーリンク
よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

コメント

コメントする

目次