東野圭吾『透明な螺旋』
人間湯川学が見られガリレオ最新刊
本作は従来のガリレオシリーズのような科学をネタにしたハウダニットではなく、登場人物の背景を追っていくものとなっている。
ガリレオシリーズとしてみると「?」という内容だが、湯川の人間臭い一面が見られるなど作品としてみれば面白かった。
「螺旋」ということから血のつながりがテーマかと思ったらその通りで、後付け設定だとは思うがこちらも興味深かった。
同棲していた男からDV被害を受けていた生花店に勤める島内園香。
だがその男は房総沖で変死体として発見される。
園香は警察に捜索願を出すが3日後に勤めていた生花店を求職し行方をくらませた。
園香と園香の母が慕っていた絵本作家のアサヒ・ナナ、殺された男の携帯履歴に残っていた銀座のクラブのオーナーママ・根岸秀美などの過去と現在が交錯する。
また、湯川の母は認知症を患い、湯川と湯川の父は母の介護に追われていた。
草薙はアサヒ・ナナが園香の失踪にかかわっていることを突き止めるが、わずかな差で取り逃がしてしまう。
ちょっとした嘘と思い違いが悲劇を生み出す。
ガリレオシリーズとしては異色の一冊。
どちらかというと、「加賀恭一郎シリーズ」のようなテイスト。
湯川が認知症の母の介護をしたりと彼の人間臭さが描かれる。
湯川はそれまでも図らずも犯罪の一端を担わされた者の心のケアをするなど、淡白な言動とは裏腹に人情味がある人物であったが、今作ではそれまで描かれることのなかった家族との絆が強調されている。
「透明な螺旋」は湯川学を中心とした人情劇だと感じた。
ただ、こう言った展開が来るとシリーズもひょっとして終わりが近いのかという危惧も抱いた。
杞憂に終わることを祈る。
今村昌弘『兇人邸の殺人』
徘徊する巨人から逃げ切れるのか?
廃墟テーマパークの中に堂々と佇む「兇人邸」。
「兇人邸」はかつての班目機関の元研究員の木下玄助の研究施設をそのまま再現したと言われている。
その「兇人邸」にあるという木下の研究資料を求める成島の求めに応じ、成島が雇った傭兵たちと兇人邸に潜入した剣崎比留子と葉村譲。
しかし、兇人邸には大鉈を持った隻腕の巨人が徘徊していた。
巨人から逃げ惑ううちに比留子だけが別館に取り残されてしまい、残ったメンバーも兇人邸からの脱出方法が見つからずクローズドサークルになってしまう。
さらに、明らかに巨人以外による殺人が発生し、皆が疑心暗鬼になる中、なんとか比留子と連絡を取りながら兇人邸脱出の方法を探るが第2、第3の殺人が起きてしまう。
徘徊する巨人や殺人鬼から身を守りながら葉村たちは兇人邸から脱出できるのか?
まず、相当に苦労してクローズドサークルを作り上げたというのが最初の感想だ。
これだけ本格ミステリーが乱発されるなか、ミステリーファンは単なる「嵐の山荘」では満足できなくなってきている。
ミステリー作家としてはいかにしてクローズドサークルを作るかというのも非常に悩ましいところである。
その点、「剣崎比留子シリーズ」は班目機関の研究というガジェットを最初に組み込んだため、他の作家には出来ないと特殊なクローズドサークルを作ることができる。
今村昌弘のデビュー作『屍人荘の殺人』は読んだ直後は、「これはありなのか?」と話題になったが、作品内で破綻がなければ私はありだと考える。
ミステリーとはそもそも作品内のロジックを楽しむものだと思っているからだ。
『兇人邸』は、研究施設であろう施設に保護されている子供たち視点の話と葉村視点による話が交互に描かれている。
映画『エイリアン』のような脱出ものとしての側面と、隻腕の巨人の正体、施設の生き残りは誰なのか、また殺人鬼の正体といったミステリー側面との二面性を持っている。
比留子と他のメンバーが分断されているので、探偵・比留子が推理を披露するというミステリー的カタルシスは望めないが、エンターテインメントとしてみると面白かった。
前作『魔眼の匣の殺人』が少し地味目だったで、その分派手な演出にしたのかもしれない。
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