本来は、④でホール&オーツ「アウト・オヴ・タッチ」について書く予定だったのだが、wikiを見てみると1984年発売で、ナンバーワンになったのも1984年の12月ということであった。
そこで、ダイア―・ストレイツ「マネー・フォー・ナッシング」に差し替えることにした。
この曲は、アルバム『ブラザーズ・イン・アームス』で取り上げるつもりであったが、上のような事情である。
80年代、音楽と映像は切っても切れない関係ないあった。
そう、MTVの誕生である。
ミュージシャンは競うように凝ったPVを作った。
なぜなら、PVの出来がセールスに大きく影響するようになったからだ。
むしろ、音楽の内容はそれほどでなくともPVが面白ければ、売れてしまうようなこともあった。
ミュージシャンにもルックスの良さが求められたり(この傾向は昔からあったがより顕著になった)、PVでの演技が求められたりと音楽以外の部分が大きくフィーチャーされた時代でもあった。
修正されたラインナップは以下のとおり。
①パートタイム・ラヴァ―/スティーヴィー・ワンダー
Part-Time Lover/Stevie Wonder
②ホイットニー・ヒューストン「すべてをあなたに」
Saving All My Love for You/Whitney Houston
③ティアーズ・フォー・フィアーズ「シャウト」
Shout/Tears for Fears
④ダイア―・ストレイツ「マネー・フォー・ナッシング」
Money for Nothing /Dire Straits
⑤ヒューイ・ルイス&ザ・ニュース「パワー・オブ・ラヴ」
The Power of Love/Huey Lewis and the News
⑥フォリナー「アイ・ウォナ・ノウ」
I Want to Know What Love Is/Foreigner
⑦REOスピードワゴン「涙のフィーリング」
Can’t Fight This Feeling/REO Speedwagon
⑧ワム!「ケアレス・ウィスパー」
Careless Whisper/Wham!
⑨ USAフォー・アフリカ「ウィ・アー・ザ・ワールド」
We Are the World/USA for Africa
⑩シンプル・マインズ「ドント・ユー」
Don’t You (Forget About Me)/Simple Minds
記憶に関する研究者によると、人間の記憶は感覚と深く結びついているという。
これは誰しも思い当たることで、例えば、すれ違った女性のシャンプーが昔の彼女と同じものだった時なんとも言えない甘酸っぱい気持ちになったりするものではないだろうか。
私はこの曲を聴くと、なぜか1985年の夏休みに催されていた「SFX展」を思い出すのだ。
ちょっとググってみたら関連動画がYoutubeに上がっていた。
いやはや、すごいな……。
お世辞にもうまいとは言えないボーカルとうまいとしか言いようのないギター
ダイア―・ストレイツはほぼ、マーク・ノップラーのワンマンバンドである。
初期メンバーにはマークの兄であるデヴィッドもいたのだが、バンドを去っている。
才能のある弟と凡人の兄という組み合わせ、ロック界には意外とあるようで、クリーデンス・クリアウォーター・リバイバルのジョンとトムのフォガティ兄弟、マイケル・シェンカー・グループのマイケルとルドルフのシェンカー兄弟とか。
マーク・ノップラーは作詞作曲、ボーカル、リードギターをこなすが、ボーカルはだみ声で音域も狭くお世辞にもうまいとは言えない。
おまけに抑揚に乏しくまるで念仏である。
しかし、フィンガーピッキングのギターワークは、ただひたすらにうまいとしか言いようがない。
彼の魔法の指から紡ぎだされたソリッドでクリアな音はどこか哀愁を漂わせており、ボーっと聞いているとメジャーコードの曲だろうとマイナーコードの曲だろうと目にウルっときてしまう。
マーク・ノップラーにしか出せない音だと思う。
フィンガーピッキングにおいてはロック界では3指に入ると思っている。
ちなみに後の2人は、ジェフ・ベックとリンジー・バッキンガム。
※個人の意見です
ダイア―・ストレイツの頂点は、この「マネー・フォー・ナッシング」を含む、「ブラザーズ・イン・アームス」だと思う。
セールス的にはもちろん、マーク・ノップラーのギタープレイと充実した楽曲群は、他のアルバムより一歩抜きんでている。
MTVの恩恵?バンド唯一のナンバーワンヒット
この「マネー・フォー・ナッシング」も、PVの面白さが話題になった1曲。
ポリゴンゴリゴリのCGアニメーションとネオンを合成されたバンドメンバーの演奏シーンがミックスされている。
現在の目から見ると稚拙なものと映るかもしれないが、当時は画期的なPVであった。
歌詞は、デパートの店員同士でテレビに映るロックスターを揶揄する内容になっている。
マーク・ノップラーはMTVが嫌いらしく、皮肉たっぷりである。
歌詞だけに飽き足らず、当時MTVの常連だったZZトップのギタリスト、ビリー・ギボンズの音をまねるというこだわり様である。
そういえば、ZZトップの3人はあの風貌でPVではノリノリで変な踊りや演技をしていたなと今になって思う。
イントロの「I want my MTV」がポリスの「高校教師(Don’t Stand So Close To Me)」のメロディーなのは有名な話だが、そのおかげでマーク・ノップラーはスティングに少なくない印税を持っていかれれることになった。
ちなみに、ドラムはオマー・ハキムが全曲叩いており、テリー・ウィリアムズは「マネー・フォー・ナッシング」のイントロのドラムソロのみらしい。
でも、このイントロのドラムソロカッコいいよね!
そして、この曲はすべて↓の2行に集約されるのだ。
That ain’t workin’, that’s the way you do it
Money for nothin,’ and chicks for free
働いてるんじゃない、それがいつものやり方さ
何もせずに金は入るし、若い女もただで手に入るのさ
MTVの功罪
あらゆる媒体で言及されていることだが、この曲の最大のアイロニーは「MTVを批判していながら、そのMTVのおかげで大ヒットしたこと」に尽きる。
MTVの登場によって、曲を売るためにアーティストは出たくもないPVを作らなければならなくなった。
しかし、逆にMTVを有効に活用しスターに上り詰めたアーティストもいる。
マイケル・ジャクソンとマドンナが筆頭だろう。
マイケルは、大金をかけショートムービーと言ってもいいほど凝ったPVを送り出し、マドンナは自身のビジュアルを最大限にアピールしたPVを作りセックスシンボルとなった。
アーティストはスタジオにこもって、曲を作っていればいい時代ではなくなった。
この頃の曲の記憶がビビットなのは、PVによって曲が資格と結びついているからなのだろう。
MTVは巨大なカネの流れを生んだが、ビジュアルだけの実力のないアーティストが粗製乱造されることにもなった。
何事にも明暗の二面性があるということなのだ。
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